(1)分析

遺伝子治療において、病気を治すための遺伝子を体内に輸送する手段として、ウイルスを基盤としたウイルスベクターが多く使用されています。ウイルスベクターはこれまで治せなかった病気を治すことができる革新的な医薬品である一方で、ウイルスベクター自身の特性、すなわちタンパク質の構成や構造、内包されているゲノムが完全に明らかにされているとは言えません。特性を明らかにするためには、その特性を観察するための「分析手法」が必要不可欠です。

本研究室では、各種あるウイルスベクターのうち、アデノ随伴ウイルスベクター(AAV)とレンチウイルスベクター(LVV)を対象とし、それらの特性を明らかにするための分析手法の開発を行っています。これらの研究は、製造の過程で作りたいウイルスベクターがちゃんと作れているかを確認し、どのような特性のウイルスベクターが治療効果が高いのか、あるいは副作用を引き起こす可能性があるのかを明らかにするために重要です。

具体的な研究テーマの例は次のようなものです。

  1. AAVを構成するタンパク質の一次構造および高次構造を解明するための質量分析手法の開発
  2. AAVを構成するタンパク質およびゲノムサイズを観察するためのキャピラリーゲル電気泳動手法の開発
  3. AAVの分子サイズ・密度分布を解析するための超遠心分析手法の開発
  4. AAVの分子サイズ分布を観察するためのマスフォトメトリー・電荷質量分析の開発

(2)製造

遺伝子治療用のウィルスベクターとして、本研究室ではアデノ随伴ウイルスベクター (AAV)を主に製造しています。

AAVには、ウィルス粒子内にウィルスゲノム DNAが内包された完全粒子とDNA を含まない中空粒子が存在し、前者の完全粒子をどれだけ純度高く精製できるかがAAVの品質特性の重要な指標です。

しかし、これまでの製造工程では AAV 完全粒子の回収量と精製度が低く、充分な最適化が行われていないのが現状です。そこで 、私たちはAAVの回収量と精製度を増加させることを目的とした研究を進めています。具体的な研究テーマの例は次のようなものです。

  1. 各製造工程で実験計画法 (DoE) を用いた条件の最適化を行い、AAV の回収量と精製度を増加させる。
  2. 各製造工程間の条件のすり合わせを検討し、工程にかかる手間等も考慮に入れながらより優れた製造工程を開発する。
  3. AAV の細胞感染効率などの品質特性を向上させるための製造工程を開発する。

最終的には遺伝子治療に向けた AAV を製造するために、ラージスケールや閉鎖系での製造工程の開発、最適化も進めています。