(1)バイオ医薬品の凝集体計測

バイオ医薬品の主成分は蛋白質ですが、蛋白質はストレスにさらされると化学変化や凝集を起こします。バイオ医薬品は製造、精製、製剤化、輸送、保管、の各場面で様々なストレスを受けるため、凝集は避けられません。
近年、凝集した蛋白質が免疫原性を持つ可能性が指摘されていることから、凝集体の正確な定量と凝集を防ぐ方法の開発が求められています。
こうした背景から、私たちは、凝集体の正確な定量法の開発、医薬品に含まれる凝集体の定量、さらに凝集メカニズムに基づく凝集の低減法の開発を進めています。凝集体が免疫系に与える影響についても細胞を使って評価しています。
また、国立医薬品食品衛生研究所や20社以上の製薬企業、分析装置メーカー、および医療デバイスメーカーと研究グループをつくり、高品質でより安全なバイオ医薬品とするために必要となる分析法についての研究を進めています。

(2)バイオ医薬品の化学構造および高次構造解析

バイオ医薬品中の蛋白質は精製や保管中に化学変化(一次構造の変化)や高次構造変化を起こします。化学変化体が免疫原性を発揮する可能性があること、さらに、体内での挙動が変わる可能性があることから適切な解析が必要です。よく知られている一次構造の変化として、メチオニンやシステインの酸化、アスパラギンの脱アミド、C末端のリジンの脱落、などがありますが他にもまだ未解明の化学変化も多数あると考えられています。
私たちは、化学構造の変化を超高分解能質量分析を用いて正確でありながら、簡便に開発する手法を開発しています。例えば、光照射により特定のヒスチジンが酸化を受けることや特定の組成条件ではシステインがラセミ化することを報告してきました。
高次構造の同一性や変化については、HDX-MSによる3Dペプチドマッピングを行うことで迅速な解析を実現しています。

(3)バイオ医薬品の高品質化のための物性研究

緩衝剤、塩、糖類、界面活性剤の種類と濃度の組み合わせは組成とよばれますが、蛋白質の溶液中での安定性は組成により大きく変わります。例えば、pHや塩濃度は、立体構造や化学構造の安定性に大きく寄与します。また、糖類や界面活性剤といった添加剤を添加することで凝集体の発生を抑制することも可能です。しかしながら、バイオ医薬品を安定に保つための組成の最適化は簡単ではありません。私たちは、第二ビリアル係数や変性温度といった物理化学的パラメーターに基づいて、安定性の面から最適な組成を合理的、効率的、かつ、迅速に見いだすための方法開発を行っています。
さらに重要な点として、バイオ医薬品の安定性は容器や包材によっても大きく異なります。高品質のバイオ医薬品のためには、適切な容器包材システムが必須です。そのため、容器や包材の特性とバイオ医薬品の安定性の関係についても研究を進めています。これまでの研究を通じて、バイオ医薬品に適したプレフィルドシリンジの特徴を見いだしています。